Everything is better than

日記ということにします。しばらくは。

『LIFE SHIFT』は長寿化時代を生きる地図になる

宝さがしに行くのに一番大切なものは食べ物でもなくて、薬でもなくて、鉄砲でもなくて、地図とコンパスですよ。
地図とコンパスさえあれば一日で帰れるわけ。そしたら食料もそんなにいらない。薬も武器もそんなにいらない。

孫正義LIVE2011 より引用





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リンダ・グラットン教授とアンドリュースコット教授の書籍『LIFE SHIFT』を初めて読んだとき、「この本はこれからの時代を示した地図とコンパスだ」と思いました。

2016年に出版されていて、私は当時出版から1か月たたないうちに購入しましたが、すでに3刷発行されていたようです。今となってはもはや人生設計の前提として100歳生きることを考えるようになってきていると思いますが、当時はまだ画期的だったように思います。

漠然と「我々は長生きするんじゃないか」と思っていたところ、この本に「私たちは100歳の寿命の社会に生きることになります。過去の生き方はもはや崩壊しつつあります」と明言されたので、頭を分厚い辞書で殴られたような気持でした。

本の中身ですが、リンダ・グラットン氏は社会の変化にあわせて「生き方そのもの」が既存のものとは大きく代わると述べています。

具体的には以下です。

■長寿化による経済面へのインパクト: 70代、または80代まで働かなければならなくなる。また、企業年金制度を設ける企業が減り、公的年金が財政面で持続困難になることで、老後の生活資金を蓄える個人の責任が重くなる。
今までの時代の生き方では、100歳を超す人生を経済的に支えられない。

■マルチステージの人生: 教育→仕事→引退というこれまでの3ステージの人生から、複数のキャリアを経験する人生に変わっていく。
キャリアを上手に移行していくことは避けて通れない。また、そのための投資を怠ってはならない。
新しい役割に合わせて自分のアイデンティティやライフスタイルを築きながら、新しいスキルを身につけるための投資が必要になる。
また、人生全体を貫く要素がなにかを意識的に問わなくてはならない。変化し続けながらも自分の本質とはなにかを問い続けなければならない。

■雇用の変化: シェアリング・エコノミーやギグ・エコノミーといった新しいエコシステムの登場により、企業で働く以外の働き方が増える。
また、テクノロジーの進化も影響する。AIやロボットによって古い職種は消滅し、新しい職種が出現する。雇用を奪うだけでなく、新たな雇用も生まれる。

■三つの無形の資産: 
①生産性資産。人が仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素のこと。スキルや知識など。
②活力資産。肉体的・精神的な健康と幸福のこと。友人や恋人、家族との良好な関係もここに含む。
③変身資産。 100 年ライフを生きるための変化や変身を遂げるために必要な資産。深い自己理解、多様性に富んだ人的ネットワーク、新しい経験へのオープンマインドなど。

■新しいステージ: 以下の3つのステージは、あらゆる世代の人が実践できる。これまでのように決まった年代特有の要素が、幅広い年齢層に分散する。
エクスプローラー…周囲の世界を探査し、そこになにがあり、その世界がどのように動いているか、そして自分がなにをすることを好み、なにが得意かを発見していく。興奮、好奇心、冒険、探査、不安といった要素がキーワードになる。
②インディペンデント・プロデューサー…職を探す人ではなく、自分の職を生み出す人。ものごとを生み出すこと、そしてそれを通じて、障害を克服できる行動指向の人物という評判を確立する。永続的な企業をつくるわけではなく、あくまで独立した立場で一時的なビジネスを行い、有形の資産ではなく、無形の資産を充実させていくことができる。
ポートフォリオ・ワーカー…さまざまな活動に同時並行で取り組む。仕事、学び、プライベートのバランスをとる。すでに人生の土台を築いた人がこの生き方に魅力を感じることだろう。所得の獲得を目的とした活動、地域コミュニティとのかかわりを主たる目的とした活動、趣味を極める活動など、さまざまな活動にさまざまな動機で取り組む。


■お金の問題: 引退後に必要な金融資産の構築に、自己効力感(自分ならできるという認識)と自己主体感(みずから取り組むという認識)をもって取り組むべき。
具体的には、投資対象を分散させ、引退が近づいたらポートフォリオのリスクを減らし、市場価値の最大化よりも引退後に安定した収入の確保を重視する。

■人間関係の変化: パートナーとの間には取引的性格を持つ関係から、純粋にお互いに恩恵をもたらすからこそ維持される関係に変容していく。
重要なのは、「相手と深く関わろうという意思」。また他の年代との関わりで固定観念をやぶることも重要。

■企業の課題: マルチステージ化する人生を理解した上で、働き方や制度、人材に対する評価を改めることが必要



100歳までみんなが生きる社会になるなんて、半分SFのような話でもありますが、もはや現実のいたるところにその萌芽は見られます。

そしてそんな社会を「高齢化社会」という言い方でネガティブなものとしてとらえられがちですが、この本では「長寿化社会」と言い換え、長寿化を厄災にせず、恩恵を受けられるように戦略的に生きようと述べています。

要約すると「100年ライフをもっとも有効に生きるためには、3ステージの人生から脱却し、無形の資産のマネジメント方法を改め、人生の設計を大きく変更する必要がある。」という提案をしています。

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既存の3ステージの人生のモデルのまま、寿命が長くなれば、私たちを待っているのは「オンディーヌの呪い」だろう。永遠に動き続ける運命を背負わされたパレモンと同じように、私たちはそれこそ永遠に働き続けなくてはならなくなる。どんなに疲れ切っていても、立ち止まれば生きていけないのだから。人生は「不快で残酷で短い」という、17世紀の政治思想家トーマス・ホッブズの言葉は有名だ。これよりひどい人生は一つしかない。不快で残酷で長い人生である。それは厄災以外の何物でもない。休む間もなく働き続け、退屈な日々を過ごし、エネルギーを消耗し、機会を生かせず、そして最後には貧困と後悔の老後が待っているのだ。

しかし、長寿を厄災にしない方法はある。多くの人が今より長い年数働くようになるのは間違いないが、呪われたように仕事に追いまくられ、疲弊させられる未来は避けられる。3ステージの人生の縛りから自由になり、もっと柔軟に、もっと自分らしい生き方を選ぶ道もある。仕事を長期間中断したり、転身を重ねたりしながら生涯を通じて様々なキャリアを経験する。そんなマルチステージの人生を実践すればいい。「オンディーヌの呪い」を避け、長寿を恩恵にする方法はこれしかないと、本書では考える。

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(『LIFE SHIFT』本文より引用)

孫正義は「宝島なら地図とコンパスさえあれば1日で宝を見つけて帰れる」と言いましたが、人生というゴールのない冒険においては、自分だけの地図を描くところから始まるのです。宝島ならよかったのに、宝物を自分で決めるところから自分の責任になるのです。ましてや1日なんかではとても終わらず、死ぬまでの長い旅になります。

この本を読んで、「ああ、好きに生きていいんだ」と心の底から安心したことを覚えています。

正直に告白すると、働いてもいない無責任な学生のうちから「そもそも人生って楽しくないな」とはっきり思っていました。生きることに楽しみを見いだせない時点で生きるのにも才能がいるのだと感じていたのですが、こうして「あなたの未来は既存の世界とは違ってきますよ」と言われることで、逆にワクワクすることができました。

就職活動をして会社に入社して、学校を卒業してから人生のほとんどを会社で仕事することに費やし、休日は趣味か睡眠に使って、家族を作って、養って、仕事を引退したら蓄えてきたお金で老後を生きていくだけが人生ではないのだと、はっきり示されたことは多くの人にとっても画期的だったのではないでしょうか。

人と違うものを「宝物」にしてもいい、人と違う速度で進んでもいい、人と違うルートで進んでもいい。むしろ、そうしないと生きていけない時代になってくるかもしれない。
そう考えてみると、今まで灰色に見えていた空が実は青かったことにようやく気づけたような、そんな、目の前の風景が明るくなったような気がしました。


長寿化は社会に革命を起こすでしょう。あらゆることが影響を受けると予想されています。人々の働き方や教育のありかた、家族のありかた、結婚の時期や相手選び、子供をつくるタイミング、余暇時間の過ごし方、社会における女性の地位など。これからますます新し価い値観が世界を上書きしていくと思います。

「100年の寿命になる時代が来るという仮説に対しての根拠や考察が甘すぎる」という批判的な感想も見かけましたが、根拠や考察などなくともこのままの方向に社会が向かっていけば、長寿化することは明白だと思います。

不老不死や不老長寿といったものは古代から重要なテーマとして扱われてきました。インドの妙薬「アムリタ」や中国の蓬莱に3000年に一度実ると言われる果実「西王母」。人魚の肉、かぐや姫が残した薬など、不老不死になるためのアイテムが世界中のあらゆる伝説や言い伝えにあります。秦の始皇帝は水銀を飲んでまで欲したとされる永遠の命。

それが現代は一般の人ですらも、不死ではありませんが昔からすれば永遠と感じられるほど長い命を手にする時代になっていきます。

お金も地位も手に入れてから長寿を願った王様や皇帝ではなく、つらく苦しい生活が長く続くだけになってしまう一般人としては、こう思います。

どうせ長寿化が避けられないのであれば、すこしでも長寿化時代を楽しく生きていけるようにLIFE SHIFTしていきたいと。