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日記ということにします。しばらくは。

借金玉著 『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい技術』 感想

2年くらい前から借金玉さんのことをTwitterでフォローしています。自分自身は発達障害の認定を受けていないのですが、心理学科を卒業して院に行った友人にテストをしてもらった結果、けっこうグレーゾーンだと分かりました。

生活習慣が不規則、時間通りに集合できない、お礼を忘れる、スケジュールを忘れる、連絡に返事を返し忘れる、ガス代を払い忘れて水シャワーで過ごす、家賃を払い忘れて怒られる、洗い物をそのまま放置してしまう、雑談がストレスになる、好きなことだと饒舌になる、長期的な人間関係がうまくいかない。

あらゆる面で日常生活を送ることにむずかしさを感じていた(いくつかは現在進行形)ときに、借金玉さんTwitterで見かけ、非常にシンパシーを覚え、言葉のはしばしからは発達障害の当事者として血反吐をはくような試行錯誤があったことがうかがえました。

ブログも、寄稿した文章もだいぶ読んでいるので、借金玉さんの言葉はだいぶ把握済みなのですが、やはり物質の本はいいということと、校正も入っている文章を読んでみたかったので購入したという経緯になります。

かなりシンパシーの感じる生きづらさではあるものの、自分はコンサータを飲んだり通院するほどではない(と思い込んでるだけなのかもしれない)ので、後半の半分ほどは「参考」にはならなかったものの、個人的に借金玉さんの文章というものは文章表現、ワーディングにあると思っているので、たいへんおもしろく読みました。

新聞で「文学性が高い」と評されていた時の借金玉さんの喜びようは他人ながらめでたい気持ちになったものです。

本来なら「ライフハック」ではなく、文学で本を書きたかったと常々言っている様子。若いころは信じられないくらい(生きる世界がちがうレベルで)ぶっ飛んでいたんだろうなあ、と感じられるエピソードを披露する借金玉さん。たまに炎上をするものの、適度な距離感で自分自身の炎上を避ける立ち回り。賛否両論な借金玉さん見ていて学ぶところが多いです。


カラスミを食べる会や、銅蟲さんとの料理対決にはいつか絶対行きたいと思っている次第です。

と、前置きがながくなりましたが、そういう私情が入っていますが、本自体の説明は公開されている通りです。





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うつでもコミュ障でも必ず成果は出る!発達障害だから書けた「弱者の戦略」自分は「大人の発達障害」なのでは、と悩む人が多いなか、その解決策を具体的に示した本は少ないのが現状です。
本書には、発達障害当事者である著者が、試行錯誤と度重なる失敗の末に身につけた「本当に役立つ」ライフハックだけを詰め込みました。
発達障害の人はもちろん、グレーゾーンの人、仕事や人間関係がうまくいかない人にも役立つ1冊です。

グレーゾーンのわたしにも参考になることが多くありました。

そして、本を開いたところにある文章が、やさしく染みるような気持ちになります。

世界は「ハイスコア自慢」で満ちています。
まるで、ハイスコアを出すことが
人生の目的みたいな気がしてきます。
そんなことはありませんよ。あなたの人生を生きましょう。
僕はもう順位は気にしません、
自分のレースを自分のスピードで走ります。
残念ながら人生はまだ続く。やっていきましょう。

シェイクスピアの言葉で

時というものは、それぞれの人間によってそれぞれの速度で走るものなのだよ

というものがありますが、本当に、わたしも、周りの人と同じスピードで走ることをだいぶ前に諦めています。

諦めるというと、ネガティブなワードのように扱われがちですが、本来は仏教では「明らめる」であって、真理を明らかにするとか、真実を明らかにする、という意味です。

人生をやっていくのに、前向きな諦めが大事だと思っていますが、高収入を得るとか、見栄えのいいパートナーを得るとか、えらくなるとか、いろいろなトロフィー自慢がされがちな世の中で、自分のトロフィーはなんなのか、ということを考えさせてくれる一文で好きです。

さて、中でも首を何度もうなづいたのがこの一文

「住民税を払う」「ガス代を払い込む」「メールを返信する」。こういう「短期タスク」を処理することが、我々には存外できません。「特に明確な理由はないが住民税を1年払い込まずにいたらものすごい延滞金が発生した」みたいな悲しいエピソードを持っている方も多いでしょう。僕もです。こういった短期タスクの管理はとても難しい。何せ細かい。いっぱいある。でも、やらないと何らかの形で怒られが発生します。生活をきちんとやれないみなさんに社会が牙をむきます。役所の牙は本当に痛い。

みなさんもありますか。

チュートリアルの徳井が税金を滞納していて大騒ぎになりましたが、他人事ではありません。

怒られてばかりです。怒ってくれて挽回の機会を与えてもらえるだけありがたいです。

こういうことに思い当たる人や、共感する人は読んで損はない本になっていると思います。

目次はこのようなかんじです。

●第1章 自分を変えるな、「道具」に頼れ 【仕事】
「かばんぶっこみ」こそが最強の戦略である
「バインダーもりもり作戦」で書類の神隠しを防ぐ
さらば、片づけ地獄! 「本質ボックス」と「神棚ハック」 ほか

●第2章 全ての会社は「部族」である 【人間関係】
人間関係の価値基盤「見えない通貨」  
部族の祭礼「飲み会」は喋らず乗り切れ 
共感とは「苦労」と「努力」に理解を示してあげること ほか

●第3章 朝起きられず、夜寝られないあなたへ【生活習慣】
「眠れない」あなたがやるべきたったひとつのこと 
発達障害の僕でもできた、最強の「二度寝」防止法 
身だしなみは「リカバリー」を重視せよ ほか

●第4章 厄介な友、「薬・酒」とどう付き合うか【依存】
コンサータを飲んでみた感想――ないと「事務ミスドミノ倒し」が発生 
ストラテラを飲んでみた感想――僕は今飲んでいません
飲んでいい酒、飲んではいけない酒 ほか

●第5章 僕が「うつの底」から抜け出した方法【生存】
休日に全く動けなくなったらすべきこと 
うつの底で、命を救う「魔法瓶」
自己肯定に「根拠」はいらない ほか


薬を飲むほどでもなさそうで、酒にもハマることはなく、鬱は診断したら分からないけれどたぶん大丈夫そうで、朝も起きられないわけではないので、3,4,5章は「そういう人もいるんだなあ」と読ませていただきました。中島らもの『今夜、すべてのバーで』を読んだ時も同じ気持ちになりました。


もう、目次が要約になっているので、要約などをせずに私が気に入った言葉を羅列して抜き出しておきます。

金玉さんの文章の魅力はその言葉選びだと思っています。内容自体、結論自体は珍しいものではなく、社会にあるライフハックと呼ばれるものを、発達障害向きに再解釈し、カスタマイズしたというかんじです。合う人もいれば、合わない人もいて当然でしょう。借金玉さんの肩を持てば「自分でカスタマイズしろ」というところもあります。

とはいえ、本当に、人は【納得感で行動が決まる】と思っているので、借金玉さんのワードチョイスがハマれば、今日からでも行動が変わる可能性はおおいにあります。



第1章 【仕事】 自分を変えるな、道具に頼れ!

自分の能力的問題を解決するよりは、環境や方法を変えるほうが簡単である。自分に欠けた能力をトレーニングによって短期的克服するのは不可能だが、環境やツールによって大きく変える事は可能である。自責は時間の無駄です。

かばんぶっこみこそが最強の戦略である。さらば片付け地獄「本質ボックス」と「神棚ハック」。本質ボックスは「雑多」「仕事」「貴重品」の三つ。

全ての会社は部族である。部族のおきてに従わない者は仲間ではない。「空気を読む」とは部族に流れるカルチャーをいちはやく読み取り順応する能力。業務習得や遂行の最高の潤滑油は「好意」。部族にはイニシエーションがある。世の中には「浜辺で全裸で踊り狂う」とか「致死的な量の酒を飲む」みたいなそりゃさすがに尊重できねえわとしか言いようのない文化をもった部族も存在します。

第2章 【人間関係】 「見えない通貨」を手に入れろ!

人間関係の価値基盤「見えない通過」。「お礼」は人間社会に流通する中で最も重要な「見えない通過」のひとつです。この「見えない通過」は部族によって違います。テンプレート的なコミュニケーション作法も一種の「見えない通過」です。この世で最もシンプルで、どの職場でも使える最強の見えない通過、それは「褒め上げ」「面子」「挨拶」の三つです。この三つを覚えれば、人間関係における9割の問題は解決すると言っていい。褒めるとは音ゲーである。褒める語彙は必要ない、大事なのはタイミング。

ボス猿にぼこぼこにされないために。「敬意」や「尊重」はかなり強力な決済手段と言えると思います。

挨拶を返さない人にも挨拶せよ。なお挨拶で「うまく言葉が出ない」とか「タイミングがわからない」ですが完全に「はずし」ても「やろうとした」ことは「やらない」よりマシです。

飲み会とは部族の祭礼である。子上がりに上がる時は全員分の靴をそろえる。料理が来たら率先して取り分ける。場の一番偉い人から可能な限り順番にお酌しに行く。喋るな、喋らせろ。

部族の通過儀礼「雑談」はひたすら同意をリピートせよ。儀礼的雑談とは通信プロトコルの相互確認である。雑談は基本的に「議論」でも「意見交換」でも「情報交換」でもない。共感とは「苦労」と「努力」に理解を示してあげること。他人の気持ちなんてそもそも誰にも分かりません、それでも「わかる」と言ってあげることで人間は喜ぶのです。

今すぐ茶番センサーを止めろ。戦略分析にはメタ視点や俯瞰視点が不可欠ですし歩兵として突撃するにはためらいを捨てて雄たけびを上げながら走るしかありません。あなたは怜悧な戦術家であると同時に一番槍をつく英雄である必要があるのです。

以上です。

わざわざ解説したり、解釈するのは無粋だな、と思うくらいには好意的に読んでいます。

文化人類学方面からの着想は素直におもしろいです。

レビューでは「言葉選びが独特過ぎて一般読者を置いてきぼりにしている」とか「それができたら発達障害名乗ってないんだよ」というのも見受けられるので、そこはまあ、そういう見方もあると思います。

ただ、「あたりまえのことしか書いていない」という批判については、その「あたりまえのことができてないから困ってたんだよ」と、グレーゾーンの人間としては思うところもあり、

あたりまえのことをなんとかやるための試行錯誤

を公開してもらえただけで助かる部分はかなりあります。

とにかく、誰にも分からない理由の生きづらさを持った人は、自分だけの攻略本をつくりながら生きていかなければいけないので大変ですが、すこしでもこの本が参考になれば、と思い、おすすめさせていただきます。