ミッドフット走法を試してみたらふとももがガッツリ筋肉痛になった。
走ることにした
3月に過労による扁桃腺の腫れで、39度の熱を出し、入院したのをきっかけに「体力をつけなければ」と心の底から思った。
ハンガリー体育大学名誉博士でもある樋口満氏によると『体力の正体は筋肉』である。筋肉は怠け者で、鍛えなければどんどん落ちていく。入院したことのある人なら、あるいはギプスをしたことのある人なら、その前後でゾッとするほど痩せてしまった経験もあるだろう。筋肉はどんどん落ちていく。そして、とくに上半身よりも下半身の筋肉のほうが減少しやすいため、下半身の筋肉を鍛えるべきである。と
また、ハーバード大学医学部臨床精神医学准教授でありマサチューセッツ州ケンブリッジで開業医もしているジョン・レイティによると「運動をすると脳も鍛えられる」のだ。否、著書のタイトルはすさまじい。『脳を鍛えるには運動をするしかない』と言っている。
運動によって認知力の向上が科学的に認められたことを紹介している。ストレス、パニック障害、鬱、ADHD、依存症、月経や閉経時の変化、加齢などにも絶大な効果があると、運動の効果は広すぎるような気もするが、古来より人間は運動をしてきた。人間は走るために進化したとアメリカの運動生理学博士で、起業家でもあるジェイソン・R・ガープは『The Inner Runner 博士が教える運動と成功の切れない関係』で、述べてもいた。
走った
というわけで、8月から走っていた。
アプリでの計測を最初は行わなかったので未計測だが、最初に1週間2.5㎞毎日走っていたので、計3週間は、毎日走った。
8月のアプリ上の合計距離は66.91㎞だった。
ジョギングをはじめるにあたって、夜に走ったほうがいいのか朝に走ったほうがいいのか、ウェアはどうするのか、シューズはなにを使うのか、走り方はどうしたらいいのか、どこを走るのかなど、いろいろな懸念点もあったが、すべて無視した。
すでに持ってるスニーカーで走ったし、朝に起きられれば朝に走り、途中からは生活が夜型に戻ってしまったので夜に走った。
家の周りを走ったし、走り方も気にせずに走った。最初は歩いているほうが早いんじゃないかというくらいのスピードでしか走ることができなかった。
距離も気にしなかった。走ってみて、もう少し行けそうなら走ったし、疲れて嫌だと思ったらやめた。
とにかく「走ること」の精神的コストを最小限に抑えて習慣化させることだけを考えた。
習慣化のための行動経済学
認知心理学者にしてノーベル経済学賞受賞斧ダニエル・カーネマンは『ファスト&スロー』のなかで、私たちにはシステム1(速い思考)とシステム2(遅い思考)があると述べている。
システム1は直感や経験に基づいて、自動的に高速で動き、日常生活で大半の判断を下している。努力も不要で自分のほうからコントロールしている感覚はない。たとえばモノの距離感や自動車の運転なども含まれる。
システム2は複雑な計算やたくさんの文字の中から必要な情報だけを抜き出すような、頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。選択や集中など。
二つのシステムはそれぞれに能力と欠陥と役割を持つ独立した主体であると考えるべきだとカーネマンは言う。
私たちが目覚めている時、どちらのシステムも起動しているが、システム1は自動的に動き、システム2は努力を低レベルに抑えた快適モードで作動している。システム1が困難に遭遇すると、システム2が応援に駆り出されるのだ。
システム2を働かせないことを考えれば、習慣化のヒントが隠れている。
トロント大学のパトリシア・プリナーはある心理学の実験をした。突然家をノックし、カナダのがん協会のためのボランティア活動をしているものだが、寄付をお願いできないかと言う。訪問先の46%がポケットマネーを募金箱に入れた。そして次の段階ではべつの地域でまず住民に「ボランティアの活動を宣伝するピンバッジをつけてもらえないか」と頼んだ。住民のほぼすべてが承知し、ピンバッジをつけた人たちの家を再び2週間後に訪れ寄付を募ると、なんと9割が寄付をおこなった。
これは「フット・イン・ザ・ドア」というテクニックである。小さな要求からはじめて段階的に要求レベルを上げていく。この寄付の割合が高まった結果について、心理学者のリチャード・ワイズマンによると「アズ・イフの法則」にも当てはまっていて、最初の小さな要求で、住民たちは慈善家であるか´のように´行動したというのだ。
つまりジョギングに「フット・イン・ザ・ドア」を応用すれば、走ってみて疲れたら帰ってきてもいい。走ってみて飽きたら帰ってきてもいい、ととにかく「走る」だけを目標設定にするのだ。
5㎞走ろう、と最初から目標設定してしまうと「今日のコンディションではきびしいのでは」とか「明日も大事な用があるのだからやめておいたほうがいいかも」とかシステム2が作動して新しい行動に対して厳しい目を向けてくると考えられる。
であれば「習慣化するまで」は「最小レベルの要求」で、慣れさせることが重要である。
また、高付加のジョギングを週1回おこなうのではなく、低負荷のジョギングをなるべく毎日行うことで「単純接触効果」も作用し、日に日に「ジョギングをする精神コスト」は下がっていく。
習慣化した後に
1か月は継続し、2か月目に突入してきた。累計84㎞走ったところで「正しい走り方」を調べてみた。
これは、実は走り始める前から気になっていたのだけれど走るのも「正しい」フォームがあるのだ。
とくに、かかとで着地するか、足の真ん中で着地するか、つま先寄りで着地するかは選手生命に関わるほど重要なことであると述べている人もいる。
もっとも、元女子マラソンランナーの有森裕さんは
自分が最も走りやすいと思う位置で着地すればいいと思いますし、あまり「つま先、真ん中、かかとのどこで着地するか」ということに意識をとられすぎないようにしたほうがいいのではないかと思います。なぜなら、着地の仕方は、ランナーのフォームや体格、筋量だけでなく、上りや下り、平坦、トラック、ロード、トレイルといった地面の状態によっても異なるからです。
と言っていて、自身のキャリアで着地のフォームを意識したことはなかったものの、故障したことはなかったそうだ。
走り始めたときに思っていたのは「走るだけでも意志の力を必要としているのに、正しいフォームを気にしたり、怪我のリスクを心配していたら、習慣化する前に面倒くさくなってしまう」ということだ。
多くの人も経験したことがあるだろう。たとえば絵を描き始めたときでもいいし、料理をはじめた時でもいい。なにか新しいことをはじめようと思ったとき「もう少し空の色に白もつかったほうが奥行きが出て綺麗に見えるよ」とか「切り方が雑だね、大きさは揃えたほうがいいよ、熱も均等に入るし」とか、正しいとしても、やる気が無くなる一言がある。
自分でもそれは自分自身に対してやりがちで、最初はやっているだけでもえらい。やったかやっていないかだけで50点か100点かを決めるべきだ。やろうとしただけで50点はあげてよい。
というわけでようやく「走るだけは余裕になってきた段階」で次のステージに進むことにした。
走り方について
着地法には三種類ある。
かかと着地、ミッドフット着地(足のまんなか)、フォアフット着地(つま先)である。
2004年開催の札幌国際ハーフマラソンではランナーの約75%がかかと着地だったそうで、日本人は基本的に自力で走ろうとするとかかと着地になってしまいがちだ。
実際、自分が走っていた時のことを思い出しても、かかと着地をしている。
でも、たとえば、大きな水たまりを飛び越えるとき、かかとから着地するとかかとの骨から衝撃が伝わり、全身がしびれるような感覚になる。
あるいは、音を立てずに歩いてくださいと言われれば、抜き足差し脚忍び足、のようにつま先から歩くことで体重移動を円滑におこない、静かに歩くことができる。
本当は、身体に衝撃を与えない歩き方(重心をブラさない歩き方、骨や関節にストレスのない走り方)は身体が知っているのだ。
それなのに、なぜか、日本人はかかとから着地する方法がオーソドックスだと思い込んでしまっている。いや、少なくとも私はそうだった。
それぞれの走り方のメリットとデメリット
もちろん、それぞれの走り方にもメリットとデメリットがある。
かかと着地のメリットは、ふくらはぎやアキレス腱への負担も少ないため、走る筋肉や腱ができていなくても走りやすい。
デメリットは、地面との接地の角度の都合上、ブレーキをかけるかたちになってしまうということ。そしてかかとの骨に衝撃が加わること、足がまっすぐ伸びた状態になっているために膝関節を傷めやすいことなど。
ミッドフットのメリットは、足への負担を軽減できること。足が曲がった状態で着地することで、関節と筋肉で衝撃を吸収し、関節への負担を軽くする。着地時のブレーキもなく、ロスなく速く楽に走れるようになる。
デメリットは習得に時間がかかること。かかと着地をしていた状態から矯正するには時間がかかる。そして、かかと着地に比べてふくらはぎやアキレス腱への負担がかかる。
フォアフットのメリットは、効率よく走れるようになること。力のロスがなく、省エネ走法になる。
デメリットは、日本人は習得が難しいこと。日本人は骨盤が落ち、重心もかかと寄りにあるため習得が難しい。無理に習得しようとすると、アキレス腱やふくらはぎの筋肉を傷めてしまうことになる。
ミッドフットを試してみた
さて、実際に、かかと着地をやってきた上で、ミッドフット着地を試してみた。
その結果、走って1㎞を過ぎた時点で、ふくらはぎと太ももの筋肉が疲労してきた。明らかに今まで使っていなかった筋肉を使っている感覚だった。最終的にっは7㎞走ったものの、すでに走り終わった時点で筋肉痛になっていた。
かかとへの負担が減る分、ふくらはぎや太ももの筋肉、腱への負担が増えるというのは本当だった。
これは正直、けっこうきつくて、4㎞超えたあたりで、もう歩いて帰ろうかなと思ってしまったくらいだった。
8月のはじめからミッドフットで走っていたら、きっとつらくて毎日走る気力は無くなっていただろうと思う。
実際、昨日の夜に走って今20時間経過したが、今日は走りたくない。
参考文献
- 作者:樋口 満
- 発売日: 2018/04/17
- メディア: 新書
脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方
- 作者:ジョンJ.レイティ,エリック・ヘイガーマン
- 発売日: 2014/03/25
- メディア: Kindle版
The inner runner 博士が教える運動と成功の切れない関係
- 作者:ジェイソン・R・カープ
- 発売日: 2019/09/14
- メディア: 単行本
- 作者:リチャード・ワイズマン
- 発売日: 2014/01/31
- メディア: Kindle版
- 作者:ダニエル カーネマン,村井 章子
- 発売日: 2012/12/28
- メディア: Kindle版
- 作者:ダニエル カーネマン,村井 章子
- 発売日: 2020/04/10
- メディア: Audible版
42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」 (角川oneテーマ21)
- 作者:NHKスペシャル取材班
- 発売日: 2013/08/12
- メディア: Kindle版